2021/07/10同じ木造でも
古民家住宅という家造りがあります。
正確に言えば古民家住宅という家造りがありました。過去形で言ったのは、今ではもう
そのような家造りはなされていないからです。この古民家住宅は同じ木造ではありますが、
現代の木造住宅とは似て非なるものがあります。何が違うのかというと、まず呼び方から
して違いますね。古民家住宅は「伝統構造の木造住宅」と言いまして、戦前までの家造りの
殆どはこの工法により造られていました。石場建て伝統構造とも言いまして、玉石を置き
その上に柱(床束ともいう)を建てるやり方です。床が高くて風通しがいいので、農家では
ここを床下収納として使い重宝していました。私の実家もこのような家で、子供の遊び場と
してもいい所でした。
ボルトや金物を一切使わずに建てられていますので、移築や解体修理も容易で、社寺建築
では今でもよく見られます。それに対して今の木造住宅は、「在来工法の木造住宅」と
言いまして、戦後に誕生した家造りの手法です。70年以上の歴史がありますが、比較的
新しい工法になりますね。現在の建築基準法に沿う形で建てられる家で、私たちが木造住宅
と呼ぶ家造りの姿です。基礎を鉄筋コンクリートで造り、柱、梁はボルトで繋ぎ、筋交いを
主要な耐震部材として考えますので、構造の考え方は随分と違ったものになりました。
昔の石場建て伝統工法は、地震力に対して柔軟な構造をしていて、しなやかな受け止め方が
出来ました。あたかも現代の超高層の理論に良く似ています。
片や在来工家は、金物やボルトでがちっと固めるやり方で、耐力を確保する工法です。
それは外力が掛かったら、力で対抗しようとするやり方です。ですから歴史的に大きな地震を
繰り返し受ける度に、益々金物で固めるやり方になってきたのでした。
残念なことに、建築基準法に伝統構造の家造りの事は一文も書かれていません。
事実上この工法で家を造ろうと思っても、出来ない現状があります。
良い点の一杯ある工法で、日本古来の木造技術の伝承のためにも、復活して欲しい
です。そのための運動を識者で長年やっていますが、未だ道は永しの状態です。