2022/03/01続、技術か事務か
その重役の方は社宅工事が始まると、現場にたまに顔を出していたのでした。
どのような職責で来られていたのかは、若い私達にはわかりませんでしたが、
技術屋さんらしい雰囲気を持っていたのでした。話しぶりはというと数字が頭に
入っているかのような語り口で、話の内容に曖昧さがないと言うか、きちんと
している印象を覚えるのでした。
うまく言えていないと思うのですが、それでいて人間的な魅力は若い私達にも
充分に伝わってくるのでした。職は高炉製鉄の工場エンジニアになります。
いつもは所長や上司が相手をされるのですが、私達がたまたま居合わせて話を
聞かせてもらったのです。
その方が「技術屋は損をするね」と言ったことがあります。
何を損をするのかは最初分かりませんでしたが、どうも聞くうちに事務系社員と
比べてそうだと言っているようなのです。技術屋はどうも視野が狭くていけない
というような趣旨の事も言ったのでした。事務系社員は現場の一線(生産現場)
で仕事をする訳ではありません。会社の経理や総務、広報あるいは営業と言った
ところに配属されて、仕事を覚えていきます。
仕事自体がこの世の中と関わることが多いので、社会の仕組みや人の事も良く勉強
が出来て、いつの間にか如才ないあか抜けた人間になるのでした。
一方技術屋は機械や生産ライン、建築土木技術者等に見るように相手は
機械や物、自然だったりします。また数字を相手にすることも多いですね。
時に厳しい現実を突き付けられることもあり、これらと向き合い、解決策を探る日々
を送ることもありますね。
また一人前の技術者になるのに、長い経験と時間を要することもあります。
そのような職場環境が人の成長と形成に大きな影響を与え、技術屋さんは真面目だが、
視野が狭いと言う印象を上司は抱くのだろうと思います。
同じように会社に入っても、上役から目を掛けられ出世していくのは、事務系社員が多い
ということが起こります。そこが「技術者は損をするね」という意味だったのです。
しかしやがて、後れを取っていた技術屋さんも仕事を覚え、立場が人を造るようにして
大きな器の人間になるから悲観するには及ばない、と言うことも言いたかったのです。