2022/05/25カワタのこと
西成の釜ヶ崎は通称あいりん地区とも言われ、日本一の日雇い労働者の町です。
何でも日本一が付けばいいというものではないのですが。
この地区には建設現場に必要な、力仕事をする人夫さんが多数住んでいます。
多くは一泊500円の安いドヤと呼ばれる簡易宿泊所で、寝起きをしている
人達です。
先日NHKでも放映されていましたが、職場を解雇された人、人間社会を忌避して
家族から地域から逃げ出してきた人、あるいは破産してここにやってきた人等
何かしらの理由で社会から弾き出された人たちです。
ここに住む人間で「カワタ」という「あんこ」が現場作業にやってきました。
あんことはここに住む労働者のことを言い蔑称です。
毎日親方のハコバンに乗せられて、中之島の現場にやってきたのでした。
主な作業は現場清掃と片付け、荷下ろし等をやってもらっていました。
ところがある時ぷっつりと出てこなくなったのでした。
長いこと出てこないので、もうどこかに行ったのではないかとの話もしていました。
職人ではありませんが、便利屋的に働いてもらいそれなりに貴重な戦力ではありました。
それが1週間後位にまたひょっこりと顔を見せて、何事もなかったかのようにして作業に
戻ってきたのでした。
訳を聞くと園田競馬で万馬券を当てて大金が懐に入ったとのことです。
それで1週間位、飲み屋のばあさん(本人の弁)と二人で魚のおいしい所に遊びに
行っていたと言います。自分中心で気ままなのはここの人間によくみられる行動です。
相手を詮索することや、色々と過去のことを聞き出すことは、暗黙のルールでやっては
いけないことになっていて、誰もそのようなことは気にもしていません。
カワタも何かの事情があって釜ヶ崎にやってきたことは間違いありません。
休憩時間に話をすることがあり「わしは畳の上で死ねるとは思っていない」と
きっぱりと言い切るのです。
こちらは与えた仕事をちゃんとやってくれれば、それ以上は何もないので特に話が
発展することはありませんでしたね。
帰郷してからのことです。何の番組だったか忘れましたが、TVを見ていると「カワタ」
の姿が見え「カワタ」の声がするのでした。あの幾分媚を含んだような話し方と姿形は
すぐ彼だと分かりました。あいりん地区の三角公園と思しき場所で、TVリポーターに
一端のことを言って伝えようとしています。
「市は少しは我々のこともよう考えてもらわんといかんわな」と。あいりん地区で彼は
幅を利かしていたのかもしれませんね。
今建設現場では解体工事、基礎工事、足場工事、水道工事等はなかなか若い人に人気が
ありません。何れも肉体を使う仕事、きつい仕事、汚れる仕事、汗水かいて働く仕事です。
カワタの言っていた事がふと思い浮かぶ時があるのです。