2022/07/01何が在ったら良かった
建築屋はお客様がいなければ出来ない仕事です。当たり前のことですが。
多くの方とお会いして日々過ごしていますが、仕事内容、お金の掛け方、時期、
クライアント、場所はみんな違っています。
似たような仕事はありますが、全く同じという事はありませんね。
ですから変化に富んで、いつも新鮮な気持ちで過ごすことが出来ています。
それで建築屋は気持ちがマンネリ化するとか、飽きが来るという事はありません。
いい仕事だなと今更ながら思うのです。
また比較するのも失礼ですが、良く医者の世界に似ていると言われています。
医者も千人を相手に仕事をしています。多くの人の話を聞き、それに対して
相応しい処方箋を決定して最善手を見つけるのです。
条件こそ違いますが、そこはプロの人間ですので間違うことはありませんね。
何年か前のことですが、手術台に上がり先生の処置を受けることになりました。
事前に説明を聞き、概ね手術内容は知らされていたことは言うまでもありません。
ですから安心してまな板のコイになっていたのでした。
先生2人が担当されて、順調に手術は進み安心していたのです。
若い女医さんが一緒でしたが、「今度学会に一緒に行くね」と執刀する先生が
言うと「勉強になりますので是非お願いします」と言うような、和んだ雰囲気
でした。
先生の話はよく聞こえて、一言一句聞き漏らすことはありませんでした。
いつも相手の声にこんなにも耳を向けて話を聞くことが出来たら、きっと人間関係は
良いものになりそうですね。
手術は少し長くなっているのかなという気がしてきてはいました。
「ン・・、こうした方がいいかな」という先生の声がその前に聞こえてきました。
何か予定通り行かないのかなと、少し緊張感が走ります。
相変わらず先生の声を聞き逃すまいと、神経は研ぎ澄まされて緊迫感を覚えるのです。
「ちょっと目尻を上げるようにしますね」と言ってきます。
同意を求めたのか、説明なのかよくわかりません。でも何が出来るわけでもなく、
力なく「ハイ」と言うしかありませんね。
手術は両目の瞼が重くなり、これ以上下がらないようにするものです。
「目はうっすらと見えますので、支障は無いですから」と聞いていたのですが、予定
と違ったのか両目は塞がり何も見ることはできません。
ベッドから降りたときから強い不安感に襲われたのです。
「約束が違う、聞いていないよこんなことは」と言う気持ちでパニック状態に陥った
のでした。それは初めて経験する心境です。
目が見えないことはこんなに苦しいのか。書いている今当時の気持ちが蘇り、穏やか
ではありません。見苦しいことではありましたが、看護婦さんを呼んで睡眠薬を貰い
ようやく寝付くことが出来たのです。
娘が他所で看護婦をしていますが、「それはお父さんの問題で医療側には何も問題は
無いように見えるけど」と一笑に付されます。
このことは建築屋にも通じて、私達プロには日常いつものことになります。
しかしお客様は初めて経験する方がほとんどです。それは一対一の関係です。
説明はしてもお客様は全てを理解することはできないかもしれません。しかし最大限の
そして詳しい実情は説明しておくべきですね。